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目が覚めるくらいに整った顔立ちの少女だ。口元は険しくきゅっと結ばれており、見た感じで辛辣そうな性格がうかがえる。その少女が、ポケットから白の手袋を出して両手にはめる。
「師匠はお下がりください。私が排除しますので」
少々寂を含んだ、独特のハスキーボイスがレンガの壁に反響。
「なんのつもりだ」
一言も話さず、ずっと静観していた少年が口を開く。その目はどこか、苛立っているようにも見えた。
「いやなに、邪魔だから倒して通るつもりだったのだ。私たちの旅館はこの道を歩いてすぐだから、お前の存在が邪魔で邪魔で仕方がない」
それと……
そう添えて、言葉を加える。
「貴様の窃盗行為が、単純に気に入らん」
「……あっそ」
さして興味のなさそうな少年。ぎらぎらとした目のまま、少女の脇をすり抜けようとする。
「おい。待て。どういうつもりだ。殴り倒してやるから貴様も構えろ! それから殴ってやる!」
両腕を広げて立ちはだかる少女。その隙間を、さらに少年は潜り抜けようと試みる。
「意気地なしめ。それでも男か!」
「生憎、俺もテメェみたいな気にいらねぇやつをぶん殴りたいとは思うが、女やガキには絶対に手を出さねぇって決めてるんでね。女を殴るのは俺の流儀に反する」
隙間から抜けることを諦め、少年は至極面倒くさそうに頭をかく。この裏通りは出入り口が一つしかないため、なんとかしてここと通らなければ食べ物を買おうにも買えないのだ。
少年の面倒がったリアクションが癇に障ったのか、少女は唾を吐きそうな勢いでまくし立てた。
「それと言っておくが、私は男だ! さっきから女呼ばわりするな馬鹿者め!」
「………………」
沈黙が降りた。
「はぁ?」
間の抜けた、少年の声。
「私は男だ阿呆! 死ね!」
的外れな批判を浴びつつ、少年は信じがたいものを見るような目で自称男の少女を見て、ため息。
「寝言は寝て言え。馬鹿」
「殺す……ッ!」
歯を食いしばり、殺意を噴出する少女。その足を、ずっと傍観していた男が止めた。
少女の肩に手を置き、笑いを堪えるようにして喉を鳴らしている。
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