第三章・酒と語らい

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 旅を始めて早三日。三人は林に入って着々と歩を進めていた。初日こそライドの体調も不調のどん底であったが、今となっては遠い昔の話である。人が歩いた痕跡をなぞり、日が暮れてきたらテントを広げて眠りつく。ここ三日間、おおむねそのような調子である。  カラスを含めた三人は基本夜遅くまで起きるようなことはなく、腹いっぱいに食した後は適量の修行をして寝る。  そしてその分、朝はひときわ早い。  スネアが放った拳を、カラスは難なく受け止めた。お返しとばかりに伸ばしてきた腕をかろうじてかわし、スネアは大きく後退。後ろにステップしようとした瞬間を、カラスは綺麗に読んでいた。 「鈍(どん)ッ!」  カラスの強烈な踏み込みに、スネアの顔は歪む。地に足が着いていない状態で、間合いを一気に詰められた。  あわてて腕を交差させるスネア。しかしその交差させた腕を縫うようにして、カラスの手刀はスネアの首元に軽く当たる。これでスネアは、今回の組み手に限ってだが死んだ扱いとなる。カラスは暫定死人となったスネアには一切構うことなく、即座に振り向いてしゃがみ込んだ。先ほどまで男の顔があった部分を、硬質な靴が引き裂く――ライドの右足だ。大きな弧を描く回し蹴りが不発に終わり、一本足で立っているライドめがけてカラスは突進。降ろしかけた右足の首を掴み、一気に持ち上げるカラス。体重バランスを大きく損なわれたライドは、抵抗する手段もないために背後へと大きく体勢を崩す。  地面へと押し倒されたライドの頭を覆うようにカラスは右手を広げ、打ち切るように告げた。 「はい終了。お前ら二人死んだよー」  その声と合せるようにしてカラスはライドの上からどき、大きな欠伸をひとつ。これにて、早朝の修行は終わりを知らせた。その知らせを受けて倒れていたライドは体を起こし、対照的にスネアは座り込んだ。ライドは朝食の準備をしに行くため、修業後の余韻に浸っている場合ではなくテントへと駆け出す。 「なぁオッサン」 「どした?」  ポケットからタバコを取り出していたカラスが、スネアの呼びかけに応じる。
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