12人が本棚に入れています
本棚に追加
「まぁ待てライド。ここは俺がなんとかしよう」
「ですが……」
ライドの頭に手を乗せて、男は快活に笑ってみせる。どうやら男のほうが格上らしく、ライドは黙ってさがった。
少年と数メートルはさんで、向き合う男。男の身なりはくるぶしにまで達するような黒のコートにサングラス。オールバックに撫でつけた髪も真っ黒で、全身を黒で統一していた。
「お前、名前は?」
先に話したのは男だった。両手をポケットに突っ込んだまま、低い声で少年に尋ねる。
「……スネアだ」
「意外だな。てっきり教えてくれないのかと思ったぜ」
「教えないと、余計面倒な目に遭いそうな予感がしたからな」
「あながち間違っちゃねぇぜ、それ」
うははははと笑う男は何が楽しいのか、両頬を吊り上げて少年を見る。
「なぁスネア、ライドが女みたいな顔だから喧嘩を断ったんだよな?」
「だったらどうした。まさかあんたが代わりに喧嘩してくれんのか?」
鼻で笑うように肩を揺らし、スネアは挑発してみせる。
「そのまさかだ。俺としようぜ? 喧嘩」
その言葉を、男は真っ向から肯定した。煙草を取り出し、男は咥えてみせる。マッチで先端に着火。深く息を吸って、紫煙を吐きだした。
その挙動を見届け、スネアは目つきを険しくさせる。
「気に入らねぇな」
その余裕な態度も、やることなすこと。
吐き捨てるように呟いたスネアに、男は律儀に自己紹介。
「俺の名前はカラス。まぁアレだ。よく飛んでるあの黒い鳥だと思ってくれ」
カラスと自称した男はポケットに両手を突っ込んだきり、動こうとしない。
「舐めやがって」
不機嫌さを全開にして、スネアは拳を構える。
「ライド、邪魔は……」
隙あり!
スネアは石畳の地面を蹴り、弾かれたようにカラスへと接近。限界まで引き絞った右腕を、全速力で撃ち出した。カラスの顔は横を向いており、うまく不意を突いたはずだった。
「おっと!」
スパァン――と、小奇麗な音が裏通りに木霊する。拳に片手を添えられ、上手に受け流されたのだ。自身の右手が相手の顔を粉砕するものだとばかり考えていた少年は、少々面食らった顔をして体勢を崩す。
瞬間、右足を一歩深く奥へ踏み込ませる。空振った右手の勢いを加速させて、大きく一回転。今度は全く予想させていなかった、左裏拳での一撃。今度こそ、男の顔面に一撃を叩きこんだつもりだった。
最初のコメントを投稿しよう!