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そんな少年の反応を楽しみながら、カラスはわざとらしく言葉を重ねる。
「いいモン見せてやるぜ、小僧――とっておきだ」
重ねる。
「ひとつ、いいことを教えてやんよ」
その声に、無限大の愉快を宿して。
「俺様がこの状態になって、無事でいたやつはただの一人も存在しない」
わざとらしく、一言一句漏らさずに真似てみせる。
「忠告だ」
カラスの影が消える。
「避けろよ?」
聞こえてきたのは、耳元から。
全く見えなかった……スネアがそう感想を漏らすより早く、首に丸太のように太い何かがめり込む――カラスの左腕だ。どうやら、左腕を横に伸ばした状態で疾走し、そのままスネアに突進したようだ。
「おごっ……」
情けない声を漏らすスネア。足の裏が地面から離れ、世界が極端に遅くなる。
「どぉおおおお……っせい!」
世界が時間を取り戻した。カラスが左腕を豪快にスイングし、紙くずのようにスネアは吹っ飛ぶ。先程までゆっくりに見えた世界は急に活気付き、スネアの両脇をレンガの壁が高速で過ぎていく。そして喉に襲い掛かってくる、遅すぎる鈍痛。
五秒ほど凄まじいスピードで吹き飛んでいたスネアだったが、ゴミ箱に衝突することでようやく止まった。空のゴミ箱に頭部を突っ込み、途切れそうな意識の中で何がどうなっているのかを必死に考える。
そんな少年をよそに、すぐそこで繰り広げられる間の抜けた会話。
「やべぇ。つい面白くなって……ライドなんとかしてくれ! これ絶対まずいって! やばい! 死んだかも!」
「そんなこと言われましても……」
身体的にも肉体的にも尋常ならざる衝撃を被ったスネアは、ふざけんじゃねぇと一喝してそのまま殴りかかってやろうと上体を起こす――こともできなかった。たった一撃で、意識を根こそぎむしられてしまったらしい。
「ざっけんじゃねぇぞ……コラ」
か細い声を絞り出した直後、スネアの意識は暗転した。その最中、最後に喧嘩で負けたのはいつのことだっただろうかと、ぼんやりと考えながら。
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