第二章・弟子

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 ひょっとしたら、生まれて初めて喧嘩で負けたかもしれない。  そう思えるくらいに、スネアは今まで喧嘩で勝ち続けてきた。すれ違った際に肩をぶつけ、いちゃもんをつけてきた男を問答無用で昏倒させたこともあったし、純粋に腹が立ったから殴ったこともあった。  要は、気に入らないのである。この世界が。  次に起きたのは、ベッドの上だった。立地上の都合だろうか僅かにしか入ってこない朝日にまぶたを照らされ、スネアは渋々目を開ける。そしてたどり着く、妥当な疑問。  ここはどこだ?  上半身を起こし、少年は四方に視線を巡らせていろいろ情報を目に収める。どうやらここはどこかの部屋で、さらに言うなら寝室のようだった。そしてスネア自身は昨日と同じ服装。ぼろぼろの上着と、ズボンだ。 「どこだよここ」  身体にしがみつく倦怠感をなんとか引きずって立ち上がる。注ぎ込まれる日光はなんとも細く、軽く掴んで捻ってやれば折れてしまいそうだ。不機嫌さを隠そうともしない目を動かせて、ドアを発見。特に何かを盗まれた形跡もないため、スネアは後ろ髪引かれることもなくドアノブを手にかける――  より早く、ドアが開いた。 「おっす、起きたか」  頭ひとつ分近く上からの、野太い声。目線を上げて声の主を見たスネアは、不愉快さを隠そうともしないで露骨に口角を下げた。 「そんなに嫌そうな顔すんじゃねぇよ……」  傷心気味のカラス。そんな男に構うこともなく、スネアはずけずけと言葉を放つ。 「ここはどこだ」 「俺とライドがとった旅館」 「俺を帰せ」 「まぁ待て」 「帰せ」 「待てって」 「かえ……」  しつこくやかましく鬱陶しく、ひたすら「帰せ」を連呼しようとしたスネアだったが、ぱったりと黙り込む――カラスが自身の袖に指をかけたためだ。あんなものを今の状態でもう一回受けたら、今度こそ死んでしまいかねない。本能的に悟ったせいか、口を閉ざすスネア。目論見は功を奏したのだろう、破顔したカラスはスネアの肩を掴み一言。
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