あなたのために

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「雪乃。」 永山改め澤田雪乃は、夫婦で勤めている会社の一階ロビーで、夫の洋介が外回りから帰って来るのを待っていた。 「洋介さん。」 雪乃の顔に笑みが広がる。 スタイルの良い細身の体でグレーのスーツを着こなし黒のビジネスコートを羽織った洋介は、やはり笑顔で雪乃に向かって歩いてくる。 「お帰りなさい。」 「ごめん、随分待った?」 「ううん、今来たところだから大丈夫。」 「一度課に戻らないとなんだ。悪いんだけど、もう少し待ってて?」 「はい。まゆちゃんと話してますね。」 洋介が雪乃の視線の先にある受付に顔を向けると、仲の良い後輩の河野まゆがニッコリ笑ってお辞儀をしてきたので洋介も挨拶を返す。 「コート、持ってましょうか?」 「ああ」 洋介がコートを脱ぎながら、思い出したように聞いてきた。 「そういえば、さっき、玄関の前で鳥海に会ったけど、何だかすごく急いでたな。」 その言葉に雪乃がクスっと笑う。 「今日の鳥海さん、朝からなんだかソワソワしてたんですよ。きっと何か…」 「ちよっと、お二人さん、ここは家じゃないんだからね。あんまり見せつけないでよ~」 雪乃の言葉を遮った大きな声のする方へ、雪乃と洋介は慌てて顔を向けた。 ・
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