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洋介と雪乃の目に飛び込んできたのは、真っ赤なバラの花束と、それを抱えた鳥海の緊張した顔だった。
二人に気付いた鳥海は一瞬気まずそうな顔を見せたが、すぐいつもの明るい笑顔で「お疲れ様です」と言うとまた歩き出した。
「…あいつ」
「え?」
「いや…」
洋介がそれ以上何も言わないので、雪乃も黙って鳥海の後ろ姿を見つめる。
ロビーにいた数人と、丁度エレベーターから降りてきた社員たちも何事かと鳥海に視線を投げる。
特に女子社員は立ち止まり、興味津々の様子だ。
そして鳥海が真っ直ぐ向かう先には、大きな目を見開いて固まっているまゆがいた。
鳥海が受付カウンター越しにまゆの前に立つ。
驚いているまゆに向かって何か言って、抱えていたバラの花束を差し出した。
雪乃と洋介にはその声は聞き取れなかったが、近くにいた女子社員から「わぁ」とか「きゃぁ」などと声が上がる。
花束を受け取って抱き締めたまゆが大きく頷いたのを見て、雪乃は思わず洋介の袖をギュッと掴んだ。
洋介がそんな雪乃を見てクスッと笑う。
「雪乃。」
「…はい。」
見上げてくる雪乃の瞳が潤んでいる。
「…俺たちは行こうか。」
「はい。」
微笑んで答えた雪乃がもう一度カウンターに目を向けると、泣いてしまったらしいまゆの頭を、鳥海が優しく撫でていた。
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