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そのトゲトゲな緑の衣を羽織っている植物は、仏頂面で私を見ていた。
それはそのサボテンを見てる私が仏頂面だったからそう感じたのかもしれないが、
少なくとも私には、このサボテンは今私のことを仏頂面を見てるように見えた。
――ここに来たのがそんなに不満…?
つん、とトゲのひとつをつつきながら、にやりといやらしく笑って言うと、
頬をもっと膨らませて、ぷいとそっぽを向いた……気がした。
きっかけは、本当に単純だ。
ぼやぼやと意味もなく乗った田舎バスのスピーカーから流れていたラジオから、
昔は涙を流すほど聞いていたフォークソンガーの代表曲がふいに流れ始めた。
別に意識的に耳を傾けたわけじゃないが、自然と私はその歌詞を目で追っていた。
その歌詞の中に「サボテンの花」というフレーズがあって、
その歌が終わり騒がしいだけの会話がはじまった時も、そのフレーズが脳内をくるくる回っていた。
そして、思い立ったが吉日。次の瞬間、私はふいにバスを降りて、そして駆け出していた。
ヒールの細いパンプス。
何度も躓きそうになったけど、転んでも怪我してもそんなことどうだっていいくらい
私はサボテンの花が見たかった。
私も、あの歌の悲しい主人公のように、にこやかに微笑むサボテンの花を見たかった。
結局、その後私はバス停から5キロも離れたホームセンターで、申し訳ない程度に売られていたサボテンを衝動買いした。
こんなのが本当に花を咲かせるのかと思ったが、咲かなかったら咲かなかったで、そういうことなのだ…。
と、レジで笑顔の仮面の店員にお金を渡しながら、またぼやぼやと考えていた。
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