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ウィン、と自動ドアが開くと、冷たい空気が頬をかすめる。
「早瀬!」
「……?あ……」
涙でにじむ視界に映り込むのは、黒縁の眼鏡の男。
「なんて恰好で出てくるんだ」
男は自分の着ていたコートを脱ぎ、私に羽織らせた。
そして、キチンと折られたハンカチで私の頬の涙を拭った。
少し触れられた指先はとても冷たかった。
「と……藤堂くん?」
「……とりあえず、あそこの喫茶店に入ろう。戻りたくないだろ?」
カラオケに行かなかった藤堂くんが何でここにいるか、とか。
なんで私にこんなにやさしくしてくれるのか、とか。
いつもの私だったら色々疑問がわいたかもしれないけれど、今は間宮くんに会いたくない、という気持ちでいっぱいで。
コクン、とだけ、頷いた。
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