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月光が射し込む木板の廊下を、一人の少女が逃げていた。
逃げる者には当然、追う者が存在する。
少女を追うのは、黒く長い髪をダラリと垂らし、まるで糸で操られているかのように不気味に動く、全身が血で赤黒く染まった――異形の者。
人の形をしてはいるが、そいつは明らかに異質であった。
血で肌色という色を失った肌が爛れていることも去ることながら、何より、眼がないのだ。
髪で隠れながらも微かに見えるそこに眼球は無く、ポッカリと黒い穴が空いているだけ。
人ではない。
いや、もしかしたら人だったのかもしれない。
元が人ならば、おそらくは女の子だったのだろう。
髪の長さと背の低さからそれは伺える。
「はぁ… はぁ…」
息も絶え絶えになった少女は、自らの体力の限界を悟ったのだろうか、急に方向を変え、まるで誘っているかの様に扉の開いた一室に、勢いよく駆け込んだ。
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