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あの時妻は、現在の愛くるしさからは想像も出来ない程荒んでいた。
長く艶やかな筈の髪は砂埃に塗れ、雪のように白い筈の肌は青白く、そして澄んでいる筈の瞳は怨みの余り真っ赤に染まっていた。
あの時の妻が何故そのような様相を呈していたのか?
それを思う度に私は、凄まじい敵愾心に囚われそうになる。
当時14歳であった妻は、級友等とはお世辞にも呼べぬ匪賊共のせいで短すぎる生涯を…
不意に私は気が付いた。
妻を励ましていたつもりの言葉が、逆に追い詰めていたのだということを。
「…無理をする事はないんだ。
過去が決して変えられないなら、未来を切り開けばいい」
私は誰にともなくそう呟くと、次の思い出の場所へと向かう事にした。
もしも私が妻の立場なら、余程の事でもない限りここへは立ち寄らない。
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