―死神の抱擁―

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「……今日も、何とか逃れたか……」  深夜、狂う程の静寂が支配する広大な魔の森のただ中で、無精髭を生やし、髪も伸ばしっぱなしでぼろぼろのマントに衣服を纏った男が、たきぎの仄かな光を前に息を吐いた。  そうして空を仰ぐと、そこには自分の人生を暗示するかのように暗雲が広がっている。  男はかつて、サウスパレス王国で一番の騎士と謳われていたスコール=フォレストなのだが、今は国を裏切り、各国の要人を暗殺する役目を負わされるだけの存在にまで成り下がっていた。  ――全ての元凶は、己が実力の高さが招いた。  噂が噂を呼び、スコールは善からぬ輩に目をつけられたのだ。  そうして留守中に家族を人質に捕られ、彼は仕える国を裏切る行為を余儀なくされた。
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