―死神の抱擁―

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 念願を果たすために、絶対に死んではならないから――。 「こんな俺でも……」  家族はまた、微笑みかけてくれるのだろうかと口にしかけて止める。  それは限りなく虚しい問いで、スコールは消えかけている火を前に、そこに本当の闇、真の静寂が訪れるのをひたすら待った。  明日も無事に、死神の抱擁から逃れるために……。 「おやすみ、フロスト。……シーナ」  聞こえる筈もない声を家族に向けて、祈る。彼女らにも“明日”がくる事を――。  しかし、スコールの願いも空しく。この数年後、スコールは雇い主からサウスパレス王国の崩壊、及び王国きっての騎士、カイル=グランデの暗殺を命じられる事となる。  この一時ですら、スコールが歩む壮絶な人生の前に用意された、ほんの僅かな“平穏”に過ぎなかったのだから……。
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