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耳触りの良い、低く透き通ったその声音。 幾分か慣れたけれど、不意に声をかけられた時なんかには未だにドキリとする。 伊東はいつだってその声ひとつで俺の感情を揺さぶるのだ。 「よう。早いな、まだ時間前だ」 本をしまい、掲げてある時計を示す。 「それはこっちのセリフだっつの。いっつも約束の10分前には必ずいるしさー、彼氏としてはあんま待たせたくないんですけどー」 彼氏の部分は小声で言いつつ、伊東は唇を尖らせる。 「つかなに読んでたの?」 「『精神の発見』」 「なにその小難しそうな本……」 そして本のタイトルを聞き、思い切り顔を顰めた。
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