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木の扉に付いた金具でノックをすると、果物屋の老婆、タバサが現れた。
「あらぁ、キロルちゃん。ご苦労様」
少年・キロルは大きなメッセンジャー・バッグから手紙と小包を出し、黙って手渡した。
受け取るタバサの手は乾燥してところどころあかぎれている。
キロルは黙ったままお辞儀をし、次の配達先へ向かった。
うっすらと降る雪はあたりを銀世界に装飾し、小さなこの町も目前と迫ったクリスマスの装いでうかれているようだ。
日が落ちると寒くていけない。キロルは体の3分の1ほどもある鞄を背負って、出来るだけ早歩きで次へ向かった。
靴屋のドアを叩くと、眼鏡をかけた小太りの男、アランが顔を出した。
「おお、君か。わざわざありがとう」
羊皮紙の手紙を手渡す。ドアの隙間からは小さな女の子が、退屈そうに窓の側に座っていた。雪を眺めているらしい。奥さんは赤ん坊の世話で忙しそうだ。
キロルは黙ってお辞儀をし、次へ向かった。閉まるドアの向こうに、一瞬、寂しそうにアランを見る少女の視線があった。
あたりの寒さは厳しくなりつつある。ボロボロのマフラーに口を埋めた。あともう少しで今年の仕事はおしまい。
そう念じて先を進んだ。
薬屋のドアをノックすると、若い娘のオリヴィアが出てきた。キロルに気が付くと、金色の長髪を掻きあげ、目線を近づけた。
「いらっしゃい。郵便の子ね、おつかれ様」
封筒を手渡すと、宛名を見て、目を見開き、頬を緩めた。美しい娘は一瞬の幸福感に包まれていた。たしか、差出人は隣町の青年だった。
「ありがとうね」
オリヴィアは小さく手を振ってドアを閉じた。キロルもお辞儀をして、最後の家へ向かった。
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