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困ったことになった。雪の強さは僅かながら強くなっていた。
それなのに、鍛冶屋のドアをノックしても人が姿を表さないし、声も返ってこない。留守にしているらしい。
郵便受けはもちろん備え付いているが、中は解けた雪で湿っていて、髪のインクが溶けてしまうおそれがある。
途方に暮れていると、茶色の髭を蓄えた大きな男が背後から現れた。
「おや、坊主。すまねえなあ、わざわざ。待っててくれてありがとうな」
この大男、ウルゴーこそが、鍛冶屋の主だ。笑顔には愛嬌がある。
ウルゴーはキロルの渡した手紙をかがんで受け取り、頭に手を置いた。
ウルゴーがドアの内に吸い込まれていく方向に黙ってお辞儀をし、大きく息を吐いた。
クリスマス、新年がもう目前。キロルは今年最後の仕事を終え、煙突の無い小屋のような小さな家に帰って来た。
床に並べたレンガの上に敷いてある藁に火打石で火をつけ、その脇にまたレンガを置いて鉄器を火にくべ、湯を沸かせた。
硬い黒パンと湯で簡単に済ませ、火を消してブランケットに包まり、薄いクッションのベッドに横たわった。
それから5分もしない頃である。
しんしんと冷え込む部屋ではまだ寝付けていなかった。そこへ、ドアを叩く音がした。
キロルは町の人との交友は無く、人が訪ねてくることは一切無かった。ただ配達物を配る相手というだけの関係だった。
ブランケットを羽織ったまま起き上がる。
ドアを開くと、大きな男が立っていた。男の背後で輝く街灯の松明が明るく、顔を確認できない。
「おお、俺だ。今、暇かね。手伝って欲しいことがあるんだが……」
鍛冶屋のウルゴーだった。うっすらと顔が見えてきた。
暇、というと?と思ったが、仕事は終わったし、貧相だが食事も済ませた。寒いから早く寝ただけで、まだ日が落ちて間も無い。
こくんと首を縦に振った。
「そいつは良かった。よし、付いて来てくれ。暖かいスープもあるぞ」
ウルゴーはにっこりと笑った。
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