ジングル・ベル

3/15
前へ
/15ページ
次へ
困ったことになった。雪の強さは僅かながら強くなっていた。 それなのに、鍛冶屋のドアをノックしても人が姿を表さないし、声も返ってこない。留守にしているらしい。 郵便受けはもちろん備え付いているが、中は解けた雪で湿っていて、髪のインクが溶けてしまうおそれがある。 途方に暮れていると、茶色の髭を蓄えた大きな男が背後から現れた。 「おや、坊主。すまねえなあ、わざわざ。待っててくれてありがとうな」 この大男、ウルゴーこそが、鍛冶屋の主だ。笑顔には愛嬌がある。 ウルゴーはキロルの渡した手紙をかがんで受け取り、頭に手を置いた。 ウルゴーがドアの内に吸い込まれていく方向に黙ってお辞儀をし、大きく息を吐いた。 クリスマス、新年がもう目前。キロルは今年最後の仕事を終え、煙突の無い小屋のような小さな家に帰って来た。 床に並べたレンガの上に敷いてある藁に火打石で火をつけ、その脇にまたレンガを置いて鉄器を火にくべ、湯を沸かせた。 硬い黒パンと湯で簡単に済ませ、火を消してブランケットに包まり、薄いクッションのベッドに横たわった。 それから5分もしない頃である。 しんしんと冷え込む部屋ではまだ寝付けていなかった。そこへ、ドアを叩く音がした。 キロルは町の人との交友は無く、人が訪ねてくることは一切無かった。ただ配達物を配る相手というだけの関係だった。 ブランケットを羽織ったまま起き上がる。 ドアを開くと、大きな男が立っていた。男の背後で輝く街灯の松明が明るく、顔を確認できない。 「おお、俺だ。今、暇かね。手伝って欲しいことがあるんだが……」 鍛冶屋のウルゴーだった。うっすらと顔が見えてきた。 暇、というと?と思ったが、仕事は終わったし、貧相だが食事も済ませた。寒いから早く寝ただけで、まだ日が落ちて間も無い。 こくんと首を縦に振った。 「そいつは良かった。よし、付いて来てくれ。暖かいスープもあるぞ」 ウルゴーはにっこりと笑った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加