章之三・―鳴家―

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 時刻はもう深夜に近い。  辺りには民家らしきものもなかったので、頼りになるのは例によって持ち寄った懐中電灯の明かりだけだ。  真の闇とまではいかないが、この明かりにまみれた現代において、近年稀に見るなかなかの闇が家の中を支配している。  こうなると普通の視界は利かなくなるのだが、不思議とこういう時こそ普通でない視界は見えなくて良いよと突っ込みたくなるくらい、はっきりとするようになる。  最近なかった事態なので、出来れば何も視ずに終えたいと願っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。  取り敢えずここは、一家心中現場でなく一家惨殺現場であったらしい。  殺された時の姿ではないものの、それぞれ殺された場所に留まり、まだ漂っているようだった。  キッチンには母親、居間に父親、玄関で祖母が、仏壇のある和室で祖父が座っている。  犯人が訪ねた際に祖母が対応し、そこで殺害。和室のある居間に行って祖父を、そして続け様にキッチンで母親を殺害して最後に居間で父親を手にかけたらしい。
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