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「でも、雪は永遠に失われないからなぁ…」
こぼれ落ちるように彼はつぶやいた。
「今日、雪が降っているように、来年も、その次も、冬がくる度に…」
雪は、降り続けるよと彼は淡く微笑む。
雪が身体の熱を奪っていくのを感じながら、私は返す言葉も見つからないまま俯いて立ち竦んだ。
何だか怖くなった。
積もっている雪が微かな光を反射してまるで非現実であるような不確かな世界を作り出している。
それと同時に、彼の存在までもが薄れていくような気がして。
「誕生日、おめでとう」
彼の穏やかな声が、やけに響いた。
雪が雑音を消してくれていたから、彼の声だけがダイレクトに耳に届く。
「プレゼントは、今降っているこの雪だ。そしてこれから降る雪だ…」
顔を上げた私を彼の真っ直ぐな視線が貫いて、彼は俄かに花が綻んだようなあたたかい笑みをよこした。
そんな彼が、雪よりもずっと綺麗だと思った。
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