涙雪

5/6
前へ
/6ページ
次へ
RRRRRRRRR ゆっくりと携帯電話を取りだして通話ボタンを押し、耳に宛てる。 「お、落ち着いて聞けよ…」 友人の取り乱した声。 「アイツがな、死んだって…」 嗚咽を漏らしている友人の声を、どこか自分には関係のないことのように聞いていた。 「今日、お前の誕生日なのにな…」 皆で盛大に祝ってやろうって、昨日、話してたのに…と友人は言葉を詰まらせた。 「アイツはね、雪になったの」 それは友人にではなく、自分に言い聞かせる為に。 「冬になれば、私の為に、空から降りてきてくれるんだよ」 儚さ故に綺麗な姿で、優しく私に流れ込む為に。 「だから私は、寂しくなんかない」 忘れない。 私は雪を見る度に、彼を思い出す。 最後に私に逢いに来てくれた彼を、雪の中に見るから。 微かな雪の落ちる音は、私の名前を呼ぶ君の声。 「忘れないよ、絶対」 私が死ぬその時まで、ずっと。 それが君の、望みだったんでしょう? そして私も、望んでいること。 君を、忘れたくないから。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加