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「そして、今宵はもうひとつ、皆さまにご報告がございます」
有良がもったいぶるように言葉を区切り、横に控えている瑠都を一瞥する。彼女はその視線に気付いているのかいないのか、つんと正面を見据えたままだ。先刻絵麻緒に引き裂かれた黒いドレスとは打って変わって、光沢のある薔薇色の派手なドレスもまたその美貌に映える。
「我が最愛の娘瑠都と、この度、帝都を代表する××銀行頭取ご令息、諸菱勲君との婚約が相成ったことをここで皆さまにご報告させていただきます」
紹介され来賓の一群の中から現れた一人の青年。年は絵麻緒よりもわずかに上だろうか。ずんぐりとした体形、可哀そうなくらいに赤面している顏にはびっしりと玉の汗が噴き出ている。令息というよりもいきなり晴れの場に招待されてとまどっている庶民といった印象の諸菱勲がぎこちなげに瑠都の隣へ寄りそう。川村家の美形家族の横に並ぶと、その醜悪さが一層際立ってしまうのが悲劇だった。
帝都最大の銀行頭取の令息と伯爵家令嬢との婚約。
この予想外のビッグニュースに広間を埋め尽くしていた来賓からどよめきと拍手がわき起こる。有良が指示する絶妙のタイミングで、給仕の者たちが俊敏な動作で来賓たちに次々とシャンパンの入ったグラスを渡してゆく。仕掛けられたサプライズに興奮と驚愕の入り混じった、様々な表情を晒す来賓の顏はそれこそ見もの。有良、絵麻緒、瑠都、勲もそれぞれ配られたグラスを手にすると、
「それでは皆さま。今宵のこのめでたきひとときに乾杯!」
グラスが高々と天に向かって掲げられ、一同は歓喜とともに祝福の杯を飲み干した。
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