第一罪 暴食

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「瑠都、疲れたかね?」  宴たけなわ。深夜を過ぎても一向に来賓は帰宅する気配はなく、逆に一層乱痴気騒ぎは盛大となる。広間の中央。バンドの演奏に乗って美女と華麗に踊る絵麻緒を目で追いながら、愚鈍な婚約者をあしらう瑠都に有良が声をかけた。 「お父様」  会話も途切れ、間が持たなくて空虚な沈黙に疲れていた瑠都は救いの主がやって来たとばかりに嬉しそうに顏を輝かせた。 「あまり顏色が良くないな。少し休んだほうがいい。勲君、悪いが瑠都を借りても良いかな?」  将来の義父の鶴の一声に婚約者は逆らえない。そのまま瑠都を有良に引き渡す。瑠都は勲に冷淡に一礼して、差し出された有良の腕に手をかけるとそのまま広間を出て行ってしまった。後ろ姿からは恋人同士といってもおかしくないほど絵になる親子を、哀れな婚約者はただ呆然と見送るしかなかった。  喧騒も遠く離れた有良の部屋。瑠都は子供のように無邪気に太く逞しい父の腕にすがり甘えながら鼻歌を歌っている。有良が静かに部屋のドアを閉め鍵をかける。 「助かりましたわ、お父様。あの方、もうどうにも退屈で退屈で私どうしようかと思っていましたの」  黒い硝子玉のように光沢のある眸がじっと父親を見つめる。 「いくらお父様のお決めになったこととはいえ、あんなつまらない方の妻になるなんて私嫌です」  頬をぷくっと膨らませいじらしい抗議を申し立てる愛娘の顎を有良はそっと指ではさんで持ちあげる。 「そんなことを言うもんじゃない。すべてはお前の幸せのためなのだよ。あの男の傍にいれば一生不自由なく遊んで暮らせるんだよ」 「でも……」
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