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「柔らかくて溶けてしまいそう」
熱い吐息を洩らしながら名残惜しげにそっと唇を離す。
「お姉さま……もっと……」
薄桃色の頬が瞬時に深紅に染まる。恥じらいながらも可愛くねだる直美。
「どこに何が欲しいのかきちんと言えたら、ね?」
羞恥で俯く下級生の反応を楽しむ瑠都。嗜虐的な笑みを湛えた横顔は凄絶な美しさだ。
「くちびるに……」
「なあに? よく聞こえなくてよ?」
今にも泣きそうな直美の声は消え入りそうだ。大きく息を吸い、恥かしさをかなぐり捨て決死の思いでただ一つの望みを口にした。
「私の唇にお姉さまの唇が欲しいの」
「よく言えました」
肩を小刻みに震わせる愛らしい直美をそっと抱いて、瑠都は遠慮することなく瑞々しいその果実を頂戴した。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
女学校の門から出てくる瑠都の姿を認めると、停まっていた車の中から濃紺の制服・制帽着用の男がすかさず降りてきた。
「待たせたわね、鏑木」
運転手の開ける後部座席のドア。何を思ったか瑠都は踏みとどまり、冷徹な視線で彼を一瞥する。
「今日は前にするわ」
鏑木の顏に瞬間動揺が走った。
「聞こえなかった? 今日は前に乗るの」
「承知しました。前でございますね」
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