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「鏑木とずっとこうしていたい」
夕暮れの中強く抱き合う二人。制服を着た鏑木の広い胸の中で瑠都は甘えた声を洩らす。華奢な身体をすっぽりと覆う両腕の力はさらに強く瑠都を抱きしめる。
「……私も想いは同じでございます……けれど私とお嬢様ではあまりにも身分が……」
瑠都の身体から発散するむせかえるような甘い香り。艶やかな黒髪に顔を埋めると、身体の深奥から湧き上がる熱を抑えきれない。鏑木の太い両腕に身を任せながらも、心では先刻までの直美の白い横顔をかぼそい声を思い浮かべる。
「身分なんてそんなもの……」
瑠都はおもむろにそのたくましい胸から小さな顔を引き離すと、蕩けるような笑顔を鏑木に差し向けた。濡れた唇が紅く光り彼を挑発する。
「ああ……お嬢さま……!」
朴訥で誠実すぎる彼は瑠都に翻弄され滾る欲望を堪え切れずに、白い胸元を飾る制服のリボンを震える手でほどき始めた。
麻布区の名士である華族の川村伯爵邸。
守衛によって門を開けられた黒いフォードは静かに敷地内に滑り込み本邸正面玄関前に停車した。鏑木が素早く降りて、瑠都のために後部座席のドアを開ける。彼が瑠都担当の運転手となって早数年。以来二人の関係は続いている。
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