第一罪 暴食

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 自室のドレッサーの前に立ち、磨き上げられた鏡に映る自分を心底美しいと思う。流行りの断髪にした当初は周囲から猛反発をくらったけれど、あまりにも似合いすぎてエキセントリックな魅力を放つ瑠都に、もはや文句を言う者はない。黒い光沢のあるシルクのドレスを身につけ、華奢でありながらも女性的なラインを見事に際立たせるそのシルエットは年齢以上の妖艶さを引き出している。化粧も完璧。すべての支度を終えてもなお、時間は有り余っていた。 「瑠都、支度はできたのか?」 「絵麻緒お兄様?」  響くノックの音と男性にしては高く涼やかな声。それに吸い寄せられるように瑠都は素早く駆け寄ってドアを開ける。 「おっと……我が妹ながら相変わらず美しい」  川村家嫡男の絵麻緒は、瑠都とよく似た美貌の持ち主だった。上背のあるすらりとした体形も面差も醸しだす雰囲気もまるで双子のように似通っており、誰もが羨む仲の良い兄妹である。 「あら? お兄様お支度はまだなの?」 「ああ、いいのさ。男は女ほど面倒くさくない。支度なんかあっという間にできるさ。それよりも……綺麗なおまえをもっとよく見せておくれ」  瑠都の言うとおり、胸元を大きく開けたラフな白い綿シャツに黒のスリムなボトムという、まるで一般庶民のようないでたち。長く伸びた前髪をかきあげながら少し神経質そうに憂いを帯びた微笑を浮かべれば、ほとんどの子女は瞬殺されるに違いない。
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