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侍を連れて歩いて外で食べるにしても落武者だし。
まわりに変な目で見られたくはないし。
私は侍を私の家に連れて帰った。
お風呂にでも入って待っててと言って、一人で買い出しに出る。
一人暮らしなのに私もよくやるよなと思う。
相手は身元不明のタイムスリップしてきた侍。
そんないかにもあやしい男を家に入れるなんて。
男を…というよりも、これは友達も彼氏もいなくて寂しすぎて野良猫拾ってきたようなものかもしれない。
何か作ってあげるにしても、私は料理はあまり得意じゃない。
スーパーにいってみたけど、買うのはお惣菜。
通りすぎていった人が被っていたニット帽を見て、侍のあの落武者頭を思い出した。
すぐに帰れたとしたら、今ここに侍はいないだろうし。
何か着替えになりそうなものを見繕って買って。
男物の下着なんてものも、結婚もしていない、彼氏もいないながらも、まわりの目を気にしながら買って。
結局貢いであげてしまっている。
買い物をして家に帰って、玄関先の草履を見て、靴を買い忘れたと思い出す。
「ただ…いま」
なんて声をかけながら部屋の奥にいくと、侍はフローリングの床の上に正座をしていた。
「お帰りなさい。…そなたに迷惑をかけて誠に申し訳ない」
侍は頭を下げる。
うっすら髪の生えた落武者頭。
私は買ってきたものをそこにおいて、ニット帽を取り出してタグをとって、その頭に被せてみた。
侍は不思議そうに顔を上げて、私が被せた帽子に手を当てる。
…やっぱり男前だ。
きりっとした男前。
「お惣菜買ってきたから、温めてすぐ出してあげるね。お風呂も入ってない?入り方わかんない?着物、汚れているから着替えよう?服も買ってきたから。先にご飯がいいよね。ちょっと待ってて」
私はお惣菜の入った買い物袋を手にして、小さなキッチンの冷蔵庫の上のレンジでチンして温める。
「…しょ、食事だけで…。こんなに良くしていただいては、何を返せるかわからぬではござらぬか」
別に侍に何かを求めてもいないんだけど。
私が勝手に貢いでしまっているだけ。
「じゃあ、ご飯が温まるまで自己紹介でもしてもらっていい?名前、なんていうの?」
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