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「名乗るのが遅れ、申し訳ない。拙者、岡野雅忠と申す」
「案外、普通の名前。なんちゃらのすけとか、なんちゃらべえみたいな名前かと思ってた」
まさただ。
岡野さんと呼ぶか雅忠さんと呼ぶか悩む。
「禄も少ない小さな武家の次男に生まれ、…その…、こんなによくしていただいているが、あまり自慢にもならぬが、拙者の時代に戻れたとしても、高山殿に返せるものは何も…」
貧乏らしい。
まぁ着物も豪華なものじゃない。
いわゆる紋付き袴ってやつだ。
時代劇に見る裃というものはつけていない。
「ボーナス出たから別に生活に困ってないよ。…でも、ねぇ?私を最初に見たとき、姫って呼んでなかった?」
何かお城に仕えていて、お姫様と親しいのかと思ったけど。
答えはしばらくなくて、温めた食事を机の上に並べて侍のほうを見る。
侍は俯いていた。
「姫は…幼なじみのようなものでござる。中納言、芝原様のご息女であられ、本来ならば、拙者などが近づけるようなお方ではござらん。ただ、姫が幼き頃、療養で過ごされた屋敷のそばに拙者が住んでいただけでござる」
「仕えているとかじゃないんだ?というか、そんなに似てる?そのお姫様」
聞いてみると、侍は顔を上げて私を見る。
頷いた。
「高山殿は本当によく似ていらっしゃる。姫より少しばかり年上のようにも思うが…」
「何歳なの?お姫様」
「15でござる」
…10も年下…。
「…雅忠さんは何歳?」
「年が明けて19となり申す」
「わかっ」
思わず口から出た。
とてもそうは見えなかったけど6も年下らしい。
「高山殿はいくつになられる?」
なんて聞かれて、私は無視した。
江戸の男に25なんて言ったら…おばさん扱いされそうだ。
おばさんみたいに世話しちゃってるけど。
「…とりあえず食べて。見たことないものもあるかもしれないけど、食べられないものじゃないから」
椅子に座るように促すと、侍は恐る恐ると近づいてきて、丁寧に手を合わせていただきますと言って食べる。
…かわいい侍だ。
そこらの19よりちゃらけてもいないし、しっかりしているかもしれない。
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