独り者

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言えないけど、本音、もうちょっとなついてほしい。 甘えてくれても構わない。 できることならしてあげる。 …なんていう私の気の持ち方が恋愛できない理由でもある。 貢がされて遊ばれるだけの女。 わかっているのに、男に対してどうしてもこうなっちゃうみたい。 大学の最後の恋愛は浮気された。 本命は私じゃなかった。 1年半も騙されていた。 バイト代入ると貸してばかりで返ってきたこともないのに、何度も繰り返して。 怒って泣いて慰められて繰り返して1年半。 恋愛なんてできない。 私はそういうものに縁遠い。 「禄ってお給料のことでしょ?ちゃんと稼げるように教えてあげる。とりあえず最初はこの時代で生活できるように慣れていこうか?」 「…かたじけない。このご恩、この岡野雅忠、一生忘れませぬ」 なんて侍は頭を下げたまま言ってくれる。 …たぶんきっと、嘘でも騙されていても、そういうことを言ってくれるからかわいいと思うんだろう。 私がしてあげられること。 してあげたこと。 感謝をしてくれるなら、それでいい。 他は別に何も望まない。 きっと私がした最後の恋愛が悪すぎた。 年末年始、実家に帰ることなく、私は侍と過ごす。 空いている部屋を侍の部屋にして同じ部屋で寝たりはしない。 買い忘れた靴を一緒に買いにいって、着替えも買って。 久しぶりの豪遊。 家の周辺の案内をして、これはなに?あれはなに?と聞いてくることに答えて。 侍ペットとお散歩。 隣を見ると、刀を手放して歩けないのか、刀を片手に持って歩く、170くらいの身長の侍。 ちょんまげないし刀もなければ、一見すればそのへんにいる男だ。 「瞳子殿、なぜにかように背の高い建物ばかりなのでござろう?火事などおきてしまえば取り壊すのも難しそうな頑丈な建物ばかりが密集しておる」 と、話せば何かが違う。 言葉を改めてもなぁと思う。 「土地が高いし狭いから上に伸びていったんじゃないかな?火事になっても簡単に燃えない建物でもあるよ。鉄筋コンクリートだし。 それより刀は持ち歩かないほうがよくない?玩具って言ってしまえばいいけど、見たからに玩具と思えないし」 鞘や柄を見れば刀は本物だと思える。 玩具ほどちゃちくはない。 けっこうな長刀だと思う。 ただ、脇差しはおいてきているから、少しはマシかもしれない。 ちなみに脇差しは短目な刀のこと。 切腹とかに使うらしい。
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