クリスマス

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気になりすぎた。 朝、いつもより早く家を出て、昨日、侍を見かけた広場にいってみた。 探すまでもなく、侍はそこにいた。 木の下でやっぱり姿勢よく正座をしている。 侍を見るだけ見て、まるで銅像でも見ただけとでもいうように通りすぎていく人。 写メを撮るだけ撮って通りすぎていく人。 基本、誰だってあまり関わりたがらないものだ。 しかもなんか普通じゃないし。 ちょんまげだし。 私はだけど、侍の目の前まで歩いていった。 そこで立ち止まると、侍のぼんやりとした、少し俯いていた視線は私を見る。 昨日の夜は暗かったし、なんかこわかったのもあってよく見ていないけど、きりっとした男前だ。 なんか真面目そう。 とても人を騙すような人には思えない。 「おはよ」 私は私から声をかけてみた。 「姫…ではなく、昨夜の女人…。昨夜は誠に失礼し申した」 侍は私に深く頭を下げる。 ちょんまげだ。 頭のてっぺん禿げてる。 上司よりもきれいに禿げてる。 というか剃っているんだろうけど。 カツラじゃないのか髪を引っ張ってみたいようにも思う。 「ずっとここにいたの?寒くない?」 「…ここはどこでござるか?江戸ではござらぬのか?拙者の知る町ではない故、迷子となり申した。そのへんを歩く者に声をかけ、聞いてみようとしても誰も拙者の言葉を聞かぬ。拙者はいつの間にやら異国にきたのでござりましょうか?」 侍はずっとここにいたらしい。 泣きそうな目を見せて私しか聞いてくれないとでも言うようにその自分が置かれている状況を話してくれる。 江戸…。 言葉遣いもそうだけど、あり得ないと本気で思うけど。 これはもしかして本物の侍? 侍がタイムスリップでもしてきた? ……そう思うのに、そう思いきれない。 だってあり得なさすぎる。 侍は身を震わせて、鼻をすすり、少し背筋を丸くしたあと、また姿勢よく正座をする。 私は持ってきたカイロを侍に差し出した。 侍のために持ってきた。 「それはなんでござる?」 「カイロ。あげる」 侍はカイロを私の手から受け取る。 「暖かい。…かたじけない」 侍はどこかうれしそうで。 お礼らしきことも言ってもらえたし、なんか私がうれしくなった。 …侍なんていう友達を持つべきではないと思うけど。 悪い人じゃないと思う。
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