265人が本棚に入れています
本棚に追加
タイムスリップ…なんて確証もないし、はっきりしたことを答えてあげられそうになくて、私は侍への答えに悩む。
「ここは東京…なんだけど、わからない?よね?」
「とうきょうとはなんでござる?」
やっぱりきた。
本気でわかっていない顔をしてる。
これが演技ならすごい役者だと思う。
「たぶん…なんだけど、あなたは時間を越えてきちゃったんだと思う。ここはあなたの知らない未来の日本。江戸」
言ってみると、侍は目を丸くして私を見る。
なんだか私がおかしな人に思えてきた。
私がきっと漫画の読みすぎなんだ。
そういうことにしておこう。
「えと、じゃあ、仕事いってくるから」
私は逃げるように駅に向かおうとして、侍は私を止めた。
「お待ちくだされっ。そなたの言っていることがよくわからぬ故、もう少し詳しく話してくだされっ」
「私だってわかんないっ。本当かどうかもわかんないっ。あなたが嘘をついていて、私は騙されているだけかもしれないしっ」
「拙者は何一つ嘘を吐いてはおらぬっ。頼み申すっ。そなたくらいしか拙者と話をしてくれる者もおらぬっ」
「警察にでもいってっ」
これ以上、無責任に関わっちゃいけないと思った。
警察なら相手をしてくれるだろう。
迷子の保護くらいしてくれるだろう。
私はなにもしてあげられそうにない。
侍はそれ以上何も聞かなかった。
何も言わなかった。
渡したカイロを手に俯く。
なんだか突き放してしまった。
でも…。
迷いながら、私にできることを考えて。
首に巻いていたマフラーをはずすと、侍の首に巻いてあげた。
何もしてあげられそうにない。
侍は私を見る。
本当に困っていそうだし、なんとかしてあげたいと思うけど。
私には何もしてあげられそうにない。
「寒かったらコンビニでも入ったほうがいいよ。風邪ひかないようにね?」
「……もう…いってくだされ」
私に聞くことも諦めたみたいだ。
私は言われたまま、駅に向かおうとして、また侍を振り返った。
侍は両手でカイロを握り、俯いていた。
最初のコメントを投稿しよう!