クリスマス

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タイムスリップ…なんて確証もないし、はっきりしたことを答えてあげられそうになくて、私は侍への答えに悩む。 「ここは東京…なんだけど、わからない?よね?」 「とうきょうとはなんでござる?」 やっぱりきた。 本気でわかっていない顔をしてる。 これが演技ならすごい役者だと思う。 「たぶん…なんだけど、あなたは時間を越えてきちゃったんだと思う。ここはあなたの知らない未来の日本。江戸」 言ってみると、侍は目を丸くして私を見る。 なんだか私がおかしな人に思えてきた。 私がきっと漫画の読みすぎなんだ。 そういうことにしておこう。 「えと、じゃあ、仕事いってくるから」 私は逃げるように駅に向かおうとして、侍は私を止めた。 「お待ちくだされっ。そなたの言っていることがよくわからぬ故、もう少し詳しく話してくだされっ」 「私だってわかんないっ。本当かどうかもわかんないっ。あなたが嘘をついていて、私は騙されているだけかもしれないしっ」 「拙者は何一つ嘘を吐いてはおらぬっ。頼み申すっ。そなたくらいしか拙者と話をしてくれる者もおらぬっ」 「警察にでもいってっ」 これ以上、無責任に関わっちゃいけないと思った。 警察なら相手をしてくれるだろう。 迷子の保護くらいしてくれるだろう。 私はなにもしてあげられそうにない。 侍はそれ以上何も聞かなかった。 何も言わなかった。 渡したカイロを手に俯く。 なんだか突き放してしまった。 でも…。 迷いながら、私にできることを考えて。 首に巻いていたマフラーをはずすと、侍の首に巻いてあげた。 何もしてあげられそうにない。 侍は私を見る。 本当に困っていそうだし、なんとかしてあげたいと思うけど。 私には何もしてあげられそうにない。 「寒かったらコンビニでも入ったほうがいいよ。風邪ひかないようにね?」 「……もう…いってくだされ」 私に聞くことも諦めたみたいだ。 私は言われたまま、駅に向かおうとして、また侍を振り返った。 侍は両手でカイロを握り、俯いていた。
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