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「そっか、良かった。とりあえず移動しようぜ。ここじゃ邪魔になる」
「ええ。この子、改札に行きたいみたい」
「分かった」
俺たちは、階段を降りて改札へ向かう波に同調して歩き出す。程なくして目的地に着くと、子供は礼を言って改札を抜けて行った。
「あの、ごめんなさい」
子供に手を振っていた女は、くるりと振り向いて言った。
「え?」
「私が手を離したせいで逃げられてしまってごめんなさい」
「あんたのせいじゃないよ」
そうか、責任を感じてあんな表情してたのか。
勇ましかったと思ったら、案外可愛いとこあるじゃねえか。
俺は、悪態ついていたことを棚上げして、この女に好感を持った。
さっきはさっき。今は今だ。
「俺も迂闊だったんだ。気にすんな」
「分かった。――じゃ、行きましょ」
「行くってどこへ」
「この映像、一応、駅員に提出しておこうかと思って」
「犯人逃げたのに映像だけ持って行ってどうにかなるのか?」
「持って行ってみないと分からないけど、被害届けを出せば、十分、立件できるんじゃないかな。条例が改正されて男性への痴漢行為も取り締まりの対象になったし、今回の場合は、痴漢行為はもちろん顔もちゃんと写ってる訳だし」
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