プロローグ

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立件。条例。被害届け。取り締まり。 ドラマでしか聞いたことのないようなワードが続いてびっくりした。 あんたいったい何者? 女の説明する内容に圧倒されて一瞬黙り込んだことに不審を抱いたのか、女は探るような目つきで問い掛けてきた。 「被害届け…出さないの?」 「そこまで考えてなかった」 「え…じゃ、駅員に引き渡してどうするつもりだったの?」 「あんたが駅員に引き渡すって言ったからそういうもんなのかとついてきただけで、その後どうなっていくのか正直分かってなかった」 「……」 「悪い、俺も痴漢なんて初めてでどうしていいか分からなかった――から…」 言葉尻はあることに捉われて疎かになる。 横を通り過ぎていく奴らが俺に冷たい視線を向けていくことに気付いたのだ。 なんだよ。ジロジロ見やがって。 不躾な視線にムッとする。 「ちょっとこっち来て」 女が溜め息を吐いて俺の腕を取ると、人の流れから少し離れた場所に移動した。 「おい、なんだよ」 「あんな風に言ったら誤解されるわよ」 「誤解?」 「痴漢なんて初めてでなんて言うんだもの」 は? だって、痴漢なんて初めて――。 「あ!」
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