3人が本棚に入れています
本棚に追加
「さ、降りるわよ」
女が、男の腕を引っ張った。そして、俺の方を向くと、「駅員に引き渡すから一緒に来て」と促す。
「お、おう」
俺は慌てて後を追った。
そこは、本来降りるはずだった駅よりも、いくつか前の駅だった。
だが、仕方ない。それに遅刻だな。電話しとかねえと。
――って、こんな時でも、遅刻とか考えるって、これって日本人の性?
俺は脳裏を過ぎったことに呆れてしまった。
くそ、朝から不愉快な思いさせた上に、遅刻までさせやがって!コイツ、ほんとムカつく。
俺は、未だにがっちりと腕を掴まれている男を睨みつけた。
男は観念したように肩を落として、大人しく女のそばに佇んでいた。
この女、すごいなあ。片手で関節技決めるとか、何か格闘技してるのか?
俺は女に目を向けて感心した。電車を降りた女は乗客の邪魔にならない場所まで移動した後、キョロキョロと辺りを見回していた。
駅員を探しているのだろう。
俺も、同じように辺りに目を配った。
「あ、あの人にしよう。あそこ」
両手が男と鞄で塞がっているため、女は視線でその方向を示した。
最初のコメントを投稿しよう!