プロローグ

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「さ、降りるわよ」 女が、男の腕を引っ張った。そして、俺の方を向くと、「駅員に引き渡すから一緒に来て」と促す。 「お、おう」 俺は慌てて後を追った。 そこは、本来降りるはずだった駅よりも、いくつか前の駅だった。 だが、仕方ない。それに遅刻だな。電話しとかねえと。 ――って、こんな時でも、遅刻とか考えるって、これって日本人の性? 俺は脳裏を過ぎったことに呆れてしまった。 くそ、朝から不愉快な思いさせた上に、遅刻までさせやがって!コイツ、ほんとムカつく。 俺は、未だにがっちりと腕を掴まれている男を睨みつけた。 男は観念したように肩を落として、大人しく女のそばに佇んでいた。 この女、すごいなあ。片手で関節技決めるとか、何か格闘技してるのか? 俺は女に目を向けて感心した。電車を降りた女は乗客の邪魔にならない場所まで移動した後、キョロキョロと辺りを見回していた。 駅員を探しているのだろう。 俺も、同じように辺りに目を配った。 「あ、あの人にしよう。あそこ」 両手が男と鞄で塞がっているため、女は視線でその方向を示した。
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