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「ああ」
俺が確認して返事をすると、女は先に立って歩き出した。俺は、男の横を歩く。
その時。
「危ないっ!」
ランドセルを背負った子供が人の波に押されて女の前に現れたのを見て、俺は声を上げた。
「え?」
女が声に反応して振り返る。
いや、こっちじゃなくて足元!
と、内心ツッコミを入れたところで既に遅かった。
「…っ!」
「…っ!」
後ろを振り返って歩みを止めた女は、子供にとっては壁も同然だ。見事にぶつかった子供は反動で後ろへ飛ばされて尻餅をつく。
「――ごめんなさい!」
女は事態に気付くと、咄嗟に男から手を離して子供のそばに屈みこんだ。
「あっ!」
しかし、すぐに自分の失態に気付いて後ろを振り返ったが、時既に遅く、男の方が動きは早かった。
腕から女の手が離れた瞬間、男は水を得た魚のように鋭気を取り戻して、すぐさま回れ右をするとその場から逃げ出した。
「あ!おい、待て!」
俺は後を追うとしたが、タイミングが悪かった。
既にホームには電車を待っている乗客が長蛇の列を作っていた。そこへ電車が滑り込んできて乗客を吐き出したものだから、ますますホームは人で溢れかえってしまったのだ。
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