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追いかけようにも、次々とやってくる人混みに行く手を遮られて、男との距離はどんどん開いていく。
男の方はなりふり構っていられないようで、強引に人の波を押しのけて走って行く。その度に、悲鳴や文句が上がっていた。
その時、ホームにベルが鳴り響き、アナウンスが流れた。
え?おい…ちょっと待て!
俺は目を疑った。
アナウンスは発車を知らせるもので、前方にある電車のドアがこれでもかというほどの乗客を乗せて閉まった。そのドアの向こうに消えたアイツ。
マジかよ!
アイツ、電車に乗りやがった!
本日二度目の呆然自失。
俺はどうすることもできないまま、アイツを乗せた電車が走り去っていくのを見送るしかなかった。
まさか、逃げるとは思わなかった。
おとなしく歩いてるから油断した。
はあ…。
大きな溜息を吐いて、視線を元に戻すと、女と子供はもう立ち上がっていた。状況を見ていたのだろう。女は何とも形容しがたい表情をしている。
ドジとでも思っているのか。
分かってるよ。
そんな眼で見んな。
俺は内心で悪態をつく。
「大丈夫か?」
「ええ、怪我はしてないみたい」
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