種の歌

7/7
前へ
/7ページ
次へ
  「マーマ」 「あら、きれいね」 私を褒められた少女は嬉しそうに笑い、空になった牛乳ビンに水を入れて私を飾ると、落とさないよう両手で大事に持って窓辺へと運んだ。 開け放たれた窓からは、爽やかな風が入り込み、白いレースのカーテンを揺らす。 その下にある小さなベッドには、小さな赤ん坊がすやすやと寝息を立てていた。 どんな夢を見ているのだろう。 眠っている赤ん坊が楽しそうに頬笑んだ。 少女が人差し指を口に当てて、そっと母親に目配せをする。 母親も片目を閉じて、そっと少女に頬笑みを返した。 窓からこぼれる日差しが笑う。 部屋を通り抜ける風も笑った。 部屋の外では木々が歌い、 名もない花達が歌い、 鳥や虫達、 海や大地も、 空も、 風も、 雲も、 太陽も、 全てのものが歌い、笑う。 私も歌おう。 これからも幾度となく、たくさん悲しみが、押し寄せて来ようと。 繰り返し、繰り返し…。 何度でも。  “笑って ほら、笑って”      ≪Fin≫ .
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加