種の歌

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  かすかに差し込んだ暖かな光に目を開けると、灰色の雲の切れ間から太陽の光が、きざはしのように地上に降り注いでいた。 もう銃声は聞こえない。 倒れている人も、いない。 壊れた建物の残骸が、あちこちに散らばっているだけの、何もない野原。 ただ、静かだ。 どこまでも、静かだ。 湿ったそよ風が、私を揺らす。 それが風ではなく、ため息だと気付いたのは、太陽の光を遮った影のせいだった。 戦火を逃れて戻って来たのだろうか? いつのまにか無精髭を生やした白髪頭の老人が傍らに座り、廃墟となった街を茫然と眺めている。 何度もため息をつき、皺だらけの手で顔を覆って、深く深く大地に向かって頭を垂れる。 この老人は死者に祈りを捧げているのだろうか? それとも、誰かに許しを乞うているのだろうか? 問いかける前に、また湿った風が吹いて来て、私は新しい旅へと向かうために、両手を精一杯に広げて大空を目指した。 .
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