10人が本棚に入れています
本棚に追加
かすかに差し込んだ暖かな光に目を開けると、灰色の雲の切れ間から太陽の光が、きざはしのように地上に降り注いでいた。
もう銃声は聞こえない。
倒れている人も、いない。
壊れた建物の残骸が、あちこちに散らばっているだけの、何もない野原。
ただ、静かだ。
どこまでも、静かだ。
湿ったそよ風が、私を揺らす。
それが風ではなく、ため息だと気付いたのは、太陽の光を遮った影のせいだった。
戦火を逃れて戻って来たのだろうか?
いつのまにか無精髭を生やした白髪頭の老人が傍らに座り、廃墟となった街を茫然と眺めている。
何度もため息をつき、皺だらけの手で顔を覆って、深く深く大地に向かって頭を垂れる。
この老人は死者に祈りを捧げているのだろうか?
それとも、誰かに許しを乞うているのだろうか?
問いかける前に、また湿った風が吹いて来て、私は新しい旅へと向かうために、両手を精一杯に広げて大空を目指した。
.
最初のコメントを投稿しよう!