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一寸先は闇っていうし、そう落ち込むなよ。俺達まだ二十代だぜ?
屋台のラーメン屋で麺をすすっていると、隣に座る同僚の林原にそう言われ、小坂はそうだよなと呟いた。
しかし内心は、そんな先の見えない人生はごめんだ、リストラされた事の無いお前に何が分かるんだ、ボケ。そんな悪態染みた言葉で溢れている。
小坂はインテリア商品の、商品開発の仕事に勤めていた。しかし四日前、上司から解雇を言い渡された。
アイデアがありきたり。社員の中でパソコンが一番下手だし仕事がとろい。ドライブ中、誰かを跳ねた。社内で色んな噂をたてられているが、解雇の原因は、只の人員削減だった。
会社にある荷物は全て撤去した。寮の契約は明後日まで残っている。それが切れれば、もう林原と会うことは無いだろう。
「まいどー。ありがしたー」
代金を払い、二人は寮へ足を運ぶ。林原はスーツを着ているが小坂は灰色のジャージ。端から見れば二人が同じ社員には見えない。
途中、林原が用事があると言い、別れた。
ケータイを開くと時刻は二十二時半。二十三時には寮へ居なければいけないはずだが、裏手にあるドアをメールで自分に開けてもらうつもりなのだろう。
何度もあった事だから慣れてはいるが、小坂は正直面倒だった。
けれど、もうすぐ寮を出ていくのだ。わざわざこじれるような事を言う必要もない。
小坂は空を見上げた。雲はあまり無く、星が良く見える。夏の大三角形か。
立ち止まって空を見つめていると、三つの内の一つ、光の移動が異常に速い。まさかUFOだろうか。しかしよく見ると、只の飛行機のようだ。再び小坂は歩き出した。
オカルトチックな事は、そうは起きない。いや、そう簡単に起きてもらっては困る。
幽体離脱は自分だけのものなのだから。
――――――
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