不可視

2/10
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 一寸先は闇っていうし、そう落ち込むなよ。俺達まだ二十代だぜ?  屋台のラーメン屋で麺をすすっていると、隣に座る同僚の林原にそう言われ、小坂はそうだよなと呟いた。  しかし内心は、そんな先の見えない人生はごめんだ、リストラされた事の無いお前に何が分かるんだ、ボケ。そんな悪態染みた言葉で溢れている。  小坂はインテリア商品の、商品開発の仕事に勤めていた。しかし四日前、上司から解雇を言い渡された。  アイデアがありきたり。社員の中でパソコンが一番下手だし仕事がとろい。ドライブ中、誰かを跳ねた。社内で色んな噂をたてられているが、解雇の原因は、只の人員削減だった。  会社にある荷物は全て撤去した。寮の契約は明後日まで残っている。それが切れれば、もう林原と会うことは無いだろう。 「まいどー。ありがしたー」  代金を払い、二人は寮へ足を運ぶ。林原はスーツを着ているが小坂は灰色のジャージ。端から見れば二人が同じ社員には見えない。  途中、林原が用事があると言い、別れた。  ケータイを開くと時刻は二十二時半。二十三時には寮へ居なければいけないはずだが、裏手にあるドアをメールで自分に開けてもらうつもりなのだろう。  何度もあった事だから慣れてはいるが、小坂は正直面倒だった。  けれど、もうすぐ寮を出ていくのだ。わざわざこじれるような事を言う必要もない。  小坂は空を見上げた。雲はあまり無く、星が良く見える。夏の大三角形か。  立ち止まって空を見つめていると、三つの内の一つ、光の移動が異常に速い。まさかUFOだろうか。しかしよく見ると、只の飛行機のようだ。再び小坂は歩き出した。  オカルトチックな事は、そうは起きない。いや、そう簡単に起きてもらっては困る。  幽体離脱は自分だけのものなのだから。          ――――――
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!