不可視

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――――  初めて幽体離脱が出来たのは、ちょうど二週間前、小坂がワゴン車に引かれた時だ。  小坂に非は無く、運転手の男の不注意が事故を招いたらしい。そのような内容を話す看護師を、小坂は病室の天井から見下ろしていた。  部屋には看護師の話を聞く両親と、眠ったままの小坂がいた。  最初は夢か何かだと考えていた小坂だったが、一人部屋や怪我は擦り傷と打撲だけという情報が一致したことから、まさかと思った。決定的だったのは運転手の男。  茶髪で右耳にピアス。小坂より若そうな男で名前が潤。幽体離脱中に見た男と瓜二つ。  間違いない、自分は幽体離脱をしたんだ。  それから小坂の人生は少し変わった。幽体離脱を感覚的に覚えていたからだ。  ホテルや銭湯に行けば何でも見ほうだい。ここ最近の小坂の脳内はそれでいっぱいだ。  自室に入り、すぐ布団にくるまって横になる。  林原の事もあるからな。あまり遠くには行かないようにしよう。  それから僅か二分、小坂は誰にも見えない体を得た。         ―――――――
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