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ずいぶん親しそうだ。その後話を聞くと、林原と潤の両方に何らかの高い収益があったらしい。
しかし妙だ。潤は事故を起こしたため慰謝料を払った筈。にもかかわらず潤は痛くもないようで、会話にも出さず終始笑っていた。それほどの収入だったのだろうか。
「あっ、そうだ。金、引き出しとこう」
意気揚々と潤がATMのところへ歩く。林原は特に興味も無さそうに、缶ビールを幾つか緑のカゴに入れていた。
この時、小坂は思った。
今まで自分は、会社のために貢献してきた、仕事も休まずコツコツと。それが手のひらを返すようにリストラを告げられ、挙げ句あの潤とか言う男に轢かれる始末。
対してその潤はどうだ。自分よりも若い、きっとまだ学生か何かなのだろう。そんな奴が慰謝料を払ったにもかかわらず、それ以上の収入を得ている。
理不尽だ。世の中なんて、不公平だ。
潤はきっと、金や女、沢山のものを手にしているのだろう。それなのに、自分には何も……。
いや、ある。たった一つ、潤には無くて自分にあるもの。
(そうだ。きっと神様は、こんな理不尽な目にあった俺にチャンスをくれたんだ。だったら、まずは……。)
小坂は、ATMを操作する潤の画面に目を凝らした。万札を手にする潤の姿、そして引き出す際に必要な事を全て、目に焼き付けて。
――――――
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