不可視

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「……くだらねえものに使いやがって」  低い声が潤の表情を凍らせた。声の主が林原だと気付くのに、小坂は少し時間が掛かった。 「林原、さん?」 「モヤシ野郎一人、殺れねえ役立たずが。おい、隠れてないで出てこいよ」  林原が言うと、廃バスの脇から男が一人、ナイフを持って出てくる。小坂はその人物を知っていた。何故なら、出てきたのは小坂の実の父親だからだ。 (どういうことだ……? 何で親父が)  潤も状況を理解出来ないらしく、震えた口を開く。 「ちょっと待てよ、林原さん。これ、何の真似だよ。っていうか、そのオヤジ誰?」 「面識はある筈だぞ。お前が殺し損ねた奴の父親だ」  小坂と潤は同じ疑問を抱いた。何故、小坂の父親が林原の言うことを聞いているのか、それもナイフなんかを手にして。  固まる潤を見た林原は、腹を抱え笑い出した。 「なんだよお前、その顔! はははっ!」 「林原さん。どういうこと、すか。何で……?」  後退りする潤。しかし小坂の父親はその距離を埋めるように歩く。潤も小坂も小坂の父親も、皆何かに怯え、震えていた。 「殺れ」  林原が命令すると、小坂の父親は叫び、次いで潤も叫んだ。  それからしばらくして、潤の声は聞こえなくなった。          ――――――
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