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白壁に掛かるアンティーク時計がクラシックのメロディーを奏でた。
午後3時を示している。
「レモンティーで、いいんでしょ?」
由貴は祖母の返事を待たずにキッチンへ向かった。
潮騒が微かに聞こえる。
キッチンの窓からも雄大な海が臨めた。
由貴がティー ポットとカップを携えて戻ると、幸子はイーゼルにキャンバスを載せ換えている。
「おばあちゃん、今から絵を描くの?」
「そうじゃなくてね」
キャンバスに描かれていたのは美人画だった。
「これは、若い時のあたしなの。あの人が……おじいちゃんが若い時に描いてくれた。でも未完成なの。いつか完成させるって言いながら結局、叶わなかった。でも、絵は良いわねえ。歳をとらないんだもの」
幸子はキャンバスを見遣りながら微笑んだ。
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