海辺

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絵の中の女性は遠くを見ていて、穏やかな眼をしている。艶やかな黒髪だ。すました表情と言ってしまえば、それまでだが、当時の女性は慎ましさを求められたのだろう。 それを右斜めから描いた構図だった。 上品で楚々とした雰囲気は今も変わらない。 寧ろ現在の幸子は、凛とした強さが加味されて孤高を愉しんでいるように見えた。 「おばあちゃん、はいったわ。飲みましょ」 由貴は祖母に声を掛け、ティーポットを押しやってカップを手に取った。 「ああ……ありがと」 幸子は白髪を手で撫でつけながらテーブルに着いた。 「聞かせてよ。おばあちゃんの若い時のこと」 「もう昔の事は忘れたわ。あたしの話なんか参考になりゃしないわよ。あんた達は二人で相談して思った通りに生きればいいの。恵子が何と言おうと、由貴の人生なんだから」 小さく笑いながら幸子はカップを口許へ寄せた。
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