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こんなときに、自分は一体なにをやっているのだろうか、と朱咲は思った。あんな小さな子供が、今の自分にできることを必死にやっているというのに、私は……。
朱咲は震える足に力をこめる。
腕にも、腹にも、足にも。
もう一度、立ち上がるために。
力をこめる。
守るんだろうが。
一 年 以 上 前 に 私 が 『 ど っ ち つ か ず の 青 色』 に そ う し て も ら っ た よ う に 、あの子を守るんだろうが。
あの子だけじゃない。
久ノ宮だって。
あおちゃんだって。
全部守るんだ。
なにが財布の借りを返しに来た、だよ。まだ返せてないじゃないか。『ジョーキング』の情報代にしたってそうだ。三人を守ってくれって言われたじゃないか。
――だから、もう一度、立ち上がらなきゃ。
朱咲は奥歯を噛みしめ自分を叱咤する。
そして、一瞬でも力を抜けば崩れてしまいそうなほど弱弱しく、けれど強い眼光を目に宿し、立ち上がった。
「おい、『死体築き《デッドメーカー》』。まだ私を倒せてないぜ? 病院送りにするんだろ? 来いよ。まだ終わってねえ」
「…………しつこいな、お前。そこで大人しく寝てればよかったのに。病院送りも変えてやるよ。今日から――」
『死体築き《デッドメーカー》』は振り返ると辟易したようにそう言った。そして、
「病院送りから墓場送りだクソ野郎!!」
『死体築き《デッドメーカー》』は獣を思わせるほどの獰猛な笑みを顔面に貼りつけ、朱咲目がけて駆けだした。
「やめろ『死体築き《デッドメーカー》』ァアア!!」
少年の喉が擦り切れんばかりの叫び声が鼓膜を叩いた。
しかし、『死体築き《デッドメーカー》』は止まらない。
拳が迫る。
一秒がとても長く、まるでスローモーションを見ているかのようだった。
ああ、これはちょっと、ヤバいかもなあ。
朱咲はぼんやりとそう思った。
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