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路地の向こう側から、その人影は現れた。
「お、お前……!」
不良はくわっ、と目を見開き、口をぱくぱくさせる。
つい数分前まで余裕のある表情をしていた男の姿はここにはなかった。
男は目前の正体不明の存在に怯えているようだった。
「な、なんで、お前が……」
男の口から細く頼りない声が漏れる。
その人物は、少々異様な恰好だった。
サイズが明らかに合っていないだろうと思われる、ぶかぶかの青色のパーカ。
顔を覆い隠さんとする大きなフード。
フードで隠しきれていない顔の下半分を、暴走族を思わせる逆三角形に折られた青いバンダナで覆っている。
フードつきの青いパーカは、あまりに大きすぎるせいでまるでワンピースを着ているように見えなくもない。
少女はその異常で異様な姿に、見覚えはなかったものの、しかし聞き覚えはあった。
レ ッ ド ブ ル ー
「……『どっちつかずの青色』――ッ!!」
男が叫んだその単語に、少女は自分の考えが間違っていなかったことを確信する。
――『どっちつかずの青色≪レッドブルー≫』。
少女の住むこの田舎町で蔓延っている、不良たちを戦慄させている生きる都市伝説だ。
自分から喧嘩を売ることは少ないが、しかし売られた喧嘩は確実に買う。
そして、そのほとんどの相手を病院送りにすることで有名な都市伝説だった。
青色を全身に纏う『どっちつかずの青色≪レッドブルー≫』だが、しかしこの生きる都市伝説は『青色組織』の人間ではない。
売られた喧嘩をすべて買うため、相手が『青色組織』の人間であっても、構わず病院送りにしてしまうらしいのだ。
ゆえにどっちつかずの青色。
「てめえ、あいつらをどうした?」
『どっちつかずの青色≪レッドブルー≫』は答えない。
ただぼんやりと突っ立っているだけだ。
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