四章 偶然は集結し、終結に向かい始める。

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   久遠と雛乃ちゃんの紐を解いた愛加ちゃんはそう言って、僕の背後に回りこんだ。足に巻かれている紐と格闘している。久遠と雛乃ちゃんが縛られていた手を擦っていた。どうやら二人も僕と同じようにかなりきつく縛られていたらしい。 「なかなか外れないな……」 「ごめんね、迷惑かけちゃって」 「借りを返しただけだよ。そんなに気にしないでいいさ」 「それにしても強いんだね、愛加ちゃんは。びっくりしたよ」 「虹葉先輩と同じところで鍛えられてるからな。師匠のおかげだ」  そうこう言ってるうちに、足のほうの拘束は解けた。あとはこの手を――  ――そこで。  僕の視界の奥に――つまり久遠と雛乃ちゃんの背後に、ゆらりと揺らめく巨大な影が映った。  影が。  二メートルはあるんじゃないのかと思うほどの人の影が。  二人の背後に。 「二人ともそこから離れろ!!」  僕は咄嗟に叫び、危機を伝える。久遠は僕の尋常ではない剣幕からすぐになにかしら危機的状況にあると察したらしい。雛乃ちゃんに飛びかかるようにしてこちらに避難してきた。さすがはトラブル吸引体質だ。こういった場面に対して反応が早い。 「な、なんだよあおちゃん一体なにが――」  がばっと距離を取った久遠が、僕のもとまで走り寄り、混乱したように問うてくる。僕の視線は人影に釘づけになっていた。目を離せない。  これは――この都市伝説は危険だ。  このただならぬ状況に愛加ちゃんも気づいたらしい。背後にて僕の手を縛っていた紐を解くのを一時中断し、スッと立ち上がった気配を感じた。愛加ちゃんが立ったのに合わせて、久遠は恐る恐る振り返る。そして、あまりに巨大過ぎるその人影を目撃し、言葉を失っていた。  空間に、静寂が訪れた。  無音が図工室を蹂躙し、緊張感を煽る。  愛加ちゃんは僕を跨ぐと、不気味な人影の前に躍り出た。鋭い眼光と、冷や汗 をもって、対峙する。僕はびりびりと肌を焦がすような感覚を覚えた。
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