四章 偶然は集結し、終結に向かい始める。

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    =朱咲愛加(あかさきあいか)=  朱咲は額に浮かんだ一筋の汗を拭った。前髪をアップにしているおかげで、視界は良好だ。しかし、それゆえに『死体築き《デッドメーカー》』の不気味さが直接的に理解できる。理解できてしまう。  右足で蹴りを繰り出す。  容易に止められた。  その隙に久ノ宮が『死体築き《デッドメーカー》』の顔面目がけて固く握りしめた拳を振るう。即興にしてはなかなかのコンビネーションだった。  次から次へと技を繰り出し、相手に反撃に転じさせる機会を与えない。朱咲と久ノ宮、どちらも囮でどちらも本命の攻撃だ。常に全力で、相手の身体に重い一撃を叩き込むことだけを考えている。 「――――っし!」  鋭く息を吐きながらの久ノ宮の一撃は、しかし『死体築き《デッドメーカー》』にやすやすと受け止められた。久ノ宮の手よりも一回りも二回りも大きな手のひらで握りつぶされそうになる。みしみしと嫌な音が鳴り始めた。  見かねた朱咲が援護の一撃を『死体築き《デッドメーカー》』にぶつける。が、それすらも弾かれた。肉体を使った直接の攻撃を諦め、朱咲は近くにあったのこぎりに手を伸ばした。これで切るつもりはない。しかし、脅し程度には活用できるだろう。そう考えての行動だった。 『死体築き《デッドメーカー》』は朱咲のやらんとしていることに気づき、久ノ宮の手を離すと、朱咲の伸ばしかけた腕を掴んだ。  細く、しなやかで引き締まった腕から嫌な感覚が伝わってくる。朱咲は左手を引き絞り、『死体築き《デッドメーカー》』の顔面目がけて叩き込んだ。正確には、叩き込もうとした。  しかし、軽々と躱され、逆に朱咲の腹部に強烈な痛みが走った。 「がはッ!!」  身体がくの字に折れ曲がり、一歩二歩とよろめく。これ以上やらせてたまるかと久ノ宮が何度も腕を突きだすが、『死体築き《デッドメーカー》』はまるで子供と遊んでいるのかと疑うほどに余裕で躱し、受けとめる。まるで相手にされなかった。 『死体築き《デッドメーカー》』は久ノ宮の連撃の合間を縫い、鬱陶しいハエでも追っ払うみたいに裏拳を見舞いした。少年の身体が仰け反る。『死体築き《デッドメーカー》』は追い打ちをかけようと朱咲の腕から手を離し、久ノ宮に肉薄する。 「久遠さん!!」
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