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雛乃の悲鳴が朱咲の耳に届いた。朱咲は突き動かされるように弾けた。高速で『死体築き《デッドメーカー》』に迫り、その無防備な背中に全力で本気の右の一撃を叩き込む。
「ぐ……ぅ……」
『死体築き《デッドメーカー》』の口から苦悶の声が漏れた。やった、と口角をつり上げる朱咲だったが、しかし、その一瞬の油断を『死体築き《デッドメーカー》』は見逃さなかった。唇を悦に歪めた顔が目の前に接近する。驚きに顔を染めた朱咲の腹部に、またしても衝撃が走った。
「が……ふ……」
口内に鉄の味が広がった。思わずせき込み、吐血する。床に膝をつき、倒れ込みそうになる。骨が何本か折れているかもしれない。
「ごほ……げほ……っ!」
咳き込む朱咲に二撃目が叩き込まれた。横腹に『死体築き《デッドメーカー》』の太い足が突き刺さる。朱咲は横っ飛びに吹き飛ばされた。がらがらと派手な音を立て、机やイスを巻き込んでいく。大量の埃が舞った。
「愛加ちゃん――!! てめえ、『死体築き《デッドメーカー》』!!」
未だに腕を縛られたままの少年の荒げた声が遠く聞こえた。ああ、あおちゃんもそんな声出すんだな、なんて場違いなことをぼんやりと思う。意識が遠のいていきそうだった。
必死に腕を伸ばし、遠ざかっていく意識を繋ぎとめようとする。久ノ宮が自分と同じように吹き飛ばされているのが見えた。力なく倒れ、それでもどうにか立ち上がろうと床に爪を立てている。
久ノ宮は眉間にしわを寄せ、涙を流しながら『死体築き《デッドメーカー》』を睨んでいた。『死体築き《デッドメーカー》』はそんな少年にもう一度蹴りを入れると、それから雛乃のほうに近寄っていく。
「殺せと言われたのはこの女か……」
大男は確認するように呟き、少年の腕の拘束を解こうと必死に手を動かしている少女に一歩踏み出す。雛乃は『死体築き《デッドメーカー》』が近寄ってくるのを視界の端に捉え、泣きながら精一杯手を動かしていた。
しかし、恐怖からくる痙攣のような震えのせいで思うように解けないでいるようだった。大粒の涙がぽろぽろとこぼれ、少年の腕を濡らしていく。
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