プロローグ

6/10
前へ
/185ページ
次へ
  「なんだあ、泣いてんのかよ、嬢ちゃん。だーいじょうぶだって、すぐに気持ち良くなるから」 「おい、タオルまだかよ」 「もうすぐだろ」 「あいつもグズだなあ、おい」  少女の口を手でふさいでいる男は、呆れたように言う。  そのときだった。 「――――!」  悲鳴だった。  悲鳴が、路地裏に響く。  それは、少女の悲鳴ではない。  そもそも口を塞がれている少女に、悲鳴を上げる手段はない。 「お、おい、今の誰の声だよ?」 「お、俺じゃねえぞ」 「俺でもねえ」 「はあ? お前らじゃねえってんなら誰だよ。俺でもねえぞ」  不良たちの顔に、徐々に不安の色が広がっていく。 「おい、ケンタのやつはどうした? もういい加減持ってきてもおかしくねえだろ」 「誰か様子見てこいよ」 「お、おう、わかった。俺がちょっと見てくる」  一人の不良はそう言うと、路地裏から出て行った。  直後。 「っ――――!?」  二度目の悲鳴が、辺りに響いた。  次いで、どさり、となにかが地面に落ちたような音も。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加