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「お、おい! なんだ、どうなってんだよ!」
「し、知らねえよ! お前ちょっと見てこいよ!」
「ふざけんな! お前が行きゃあいいだろうが!」
「お前ら二人で見てこい! 俺はこの女を押さえとくから!」
言われた男二人は覚悟したように頷くと、二人して慎重に恐る恐る裏路地から出て行った。
少女も不良たちと同じように不安には駆られていたが、さっきまでの状況より悪くなることなどないだろう、といくぶんか落ち着いた様子で二人が出て行った先を見つめていた。
と、
今しがた路地裏から出て行ったばかりの二人の焦燥に駆られた声が少女のもとまで届いてきた。
「――な、なんで、お前がここに……!」
「ざけんなよ、なんで俺たちが――」
声はそこで途切れた。
代わりに鈍い音が二回。
それから、不良二人が地面に倒れ込んだらしい音が、唖然としている不良と少女の耳に届いた。
「…………」
辺りに沈黙が落ち、無音が空間を支配する。
一秒。二秒。三秒。……と時間が流れていく。緊張感からか、心なしか手足が痺れてきた気がする。呼吸もし辛くなってきた。
やがて、奥のほうから足音が聞こえてきた。
小さなはずのその音は、路地の中で荘厳に反響する。
闇の中に残響するその足音に恐怖を感じているのか、少女の口にあてている男の手は、小刻みに震えていた。
少女は恐怖からか、それともこの状況を打破してくれる存在だと期待しているからか、固唾を飲んで目を凝らしていた。
今どんな心境なのか、少女は自分でも把握できていなかった。
心臓の脈を打つ音が少女の頭に響き、脳までも痺れてしまいそうだった。
貧血の症状にも似ている。
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