清冷の朝に

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  今まで漠然としていたものがたちどころに形を成す。 ちゃんと理解していたはずなのにな…。 心の中でそう漏らすと自分が情けなくてつい笑ってしまった。 彼は何も言わずに私を見下ろしていた。 「私は大丈夫ですから。だから、久保さんも家族のところに…自分がいるべきところに戻ってください」 彼…久保さんは困惑したように顔を歪めてしばらく押し黙ってから、ゆっくり口を開いた。 「……ごめん。ありがとう…」 「ありがとう」とは、久保さんも変化を望んでいたからこその言葉だろう。 私と別れる事を少しでも寂しいと思ってくれているんだろうか。 もう、その表情を見れただけで十分だった。 いつものように、久保さんを玄関まで送る。 最後の見送りは、憑き物が落ちたかのように信じられないほど心がすっきりしていた。 「久保さん、さっきポケットから落ちましたよ」 「…え?あ、ありがとう」 この嘘は許して欲しい。 だってハンカチを仕込むなんて発想、本当に馬鹿げていたんだから。 子供のガーゼを受け取ると久保さんの瞳が一瞬緩んだ。 それは子供を慈しむ父親の目だった。  
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